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研究紹介

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研究ハイライト一覧

[2014年6月]
長年の謎「隠れた秩序」における対称性の変化を直接観測 Topへ

物質の状態の変化を物理的に理解するには、相転移によってどのような対称性が変化したかを明らかにすることが最も重要です。 強相関電子系物質として知られているウラン化合物URu2Si2では、17.5ケルビンで相転移を起こしますが、対称性がどのように変化したかということが不明の状態が続いていました。 この相転移は、「隠れた秩序」のミステリーとして物質物理学の重要課題の一つになっています。今回我々は、大型放射光施設SPring-8(BL02B1)における高分解能結晶構造解析を、従来に比べ約30倍以上純度の高い単結晶試料を用いることで精密測定を行うことに成功しました。 その結果、この系の結晶構造が図のように同定され、相転移よりも高温で保たれていた正方形状の4回回転対称性(図左)が、低温では菱形状の2回回転対称性(図右)に低下していることを突き止めました。 この結果は、磁場をかけない状態における回折実験という直接的な方法で、「隠れた秩序」相で回転対称性が破れていることを初めて実験的に明らかにしたもので、この秩序の謎を解く大きな鍵を与える結果です。

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"Direct observation of lattice symmetry breaking at the hidden-order transition in URu2Si2"
S. Tonegawa, S. Kasahara, T. Fukuda, K. Sugimoto, N. Yasuda, Y. Tsuruhara, D. Watanabe, Y. Mizukami, Y. Haga, T.D. Matsuda, E. Yamamoto, Y. Onuki, H. Ikeda, Y. Matsuda, and T. Shibauchi
Nature Communications 5, 4188 (2014); arXiv:1406.5040.

[2014年4月]
空間反転対称性の破れ方の人工制御により超伝導特性の変化を観測 Topへ

結晶中に空間反転対称性の破れがあると、実効的に電場勾配が生じ、スピン軌道相互作用によりフェルミ面の分裂が起きるため、この効果により新奇な電子状態が期待されています。 例えば、空間反転対称性の破れた超伝導体では、スピン一重項と三重項が混じった新しい超伝導が実現することが理論的に示されています。 しかし、空間反転対称性の破れの度合いは結晶構造で決定されるため、これまではこの破れの効果がどの程度効いているのかを実験的に明らかにすることは困難でした。 我々は超伝導体のエピタキシャル超格子構造に層数の変調を導入することにより、空間反転対称性の破れを変化させ、局所的な電場勾配を発生させることに成功しました。 層数の変調度合いを変化させることにより、フェルミ面の分裂(ラッシュバ分裂)を制御し、実際に超伝導特性に顕著な変化が生じることを世界ではじめて見出しました。 この結果は、新しい超伝導状態の実現に向け、ラッシュバ型のスピン軌道相互作用を既存の技術により人工的に制御可能であることを示した重要な結果であると考えられます。

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"Controllable Rashba spin-orbit interaction in artificially engineered superlattices involving the heavy-fermion superconductor CeCoIn5"
M. Shimozawa, S. K. Goh, R. Endo, R. Kobayashi, T. Watashige, Y. Mizukami, H. Ikeda, H. Shishido, Y. Yanase, T. Terashima, T. Shibauchi, and Y. Matsuda
Phys. Rev. Lett. 112, 156404 (2014); arXiv:1404.0482.

[2013年2月]
量子ゆらぎにより超伝導電子が特定の方向でのみ重くなることを明らかに Topへ

磁性を示す物質の化学的組成を変化させるなどして磁性を消失させると、従来の超伝導とは異なる発現機構を持つ「非従来型超伝導」が出現する場合があります(左図)。 磁性が消失すると、絶対零度においてハイゼンベルグの不確定性原理に由来した量子力学的な「ゆらぎ」が出現します。この量子ゆらぎが超伝導とどのように関連しているのかを解明することが超伝導発現の理解の鍵と考えられてきました。 今回我々はこのような量子ゆらぎが強いと考えられている非従来型超伝導体(重い電子系化合物、鉄系超伝導体、有機超伝導体)の磁場侵入長の温度依存性を極低温まで精密測定したところ、 超伝導の結合の強さを表す超伝導ギャップの形(右図)のみを考えた場合に期待される温度に比例した振る舞いとは異なる、温度の3/2乗の依存性を普遍的に示すことを明らかにしました。 この結果は超伝導ギャップが小さくなる方向で超伝導電子が重くなることを示唆しており、有効質量の増大をもたらす量子ゆらぎが、超伝導電子に特異な形で直接影響を及ぼしていることを初めて明らかにしたものです。

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"Anomalous superfluid density in quantum critical superconductors"
K. Hashimoto, Y. Mizukami, R. Katsumata, H. Shishido, M. Yamashita, H. Ikeda, Y. Matsuda, J. A. Schlueter, J. D. Fletcher, A. Carrington, D. Gnida, D. Kaczorowski, and T. Shibauchi
Proc. Natl. Acad. Sci. USA 110, 3293-3297 (2013); arXiv:1302.2945.

[2012年10月]
局所的反転対称性の破れによる重い電子超伝導の異常を観測 Topへ

結晶構造中に空間反転対称性の破れにより電場勾配が生じると、結晶内を運動する電子に働くスピン軌道相互作用のため、波数方向により電子スピンの方向が制限を受け、バンドが分裂します。 このような効果は、半導体の2次元表面やヘテロ界面において、「ラシュバ分裂」として知られています。最近我々により世界ではじめて実現した重い電子系化合物の超伝導超格子では、希土類元素のスピン軌道相互作用が大きいため、 このような界面で期待されるバンド分裂効果が超伝導にどのような影響を及ぼすかが、重要な問題となります。我々は、超伝導を担うセリウム層の層数を5,4,3と減少させることにより、上部臨界磁場の角度依存性が劇的に変化することを見出しました。 これは界面の占める割合が上昇するにつれ、バンド分裂効果により超伝導の磁場による対破壊機構が変更を受けることを示唆しており、重い電子系超伝導状態の物理の理解に重要な結果です。

"Anomalous upper critical field in CeCoIn5 / YbCoIn5 superlattices with a Rashba-type heavy fermion interface"
S. K. Goh, Y. Mizukami, H. Shishido, D. Watanabe, S. Yasumoto, M. Shimozawa, M. Yamashita, T. Terashima, Y. Yanase, T. Shibauchi, A. I. Buzdin, and Y. Matsuda
Phys. Rev. Lett. 109, 157006 (2012); arXiv:1207.4889.

[2012年9月]
モット絶縁体が示す新しい量子スピン液体相の存在を明らかに Topへ

2次元モット絶縁体の多くは低温で反強磁性秩序を示しますが、三角格子など幾何学的フラストレーションを持つ系では、その反強磁性転移温度が消失し、絶対零度まで磁気秩序を示さない量子スピン液体状態を示す可能性があることが理論的に示されています。 このような磁気秩序を示さない系として、有機化合物EtMe3Sb[Pd(dmit)2]2において、極低温熱伝導率および比熱測定により低エネルギー励起の存在が示唆され、その基底状態がどのようになっているのか、大きな注目を集めています。 今回、この低エネルギー励起が、スピン励起によるものかどうかを明らかにするために、磁気トルクを用いて単結晶試料における極低温帯磁率を測定した結果、スピン励起にギャップはなく、低エネルギー励起が存在すること、また重水素化により低エネルギー励起は消失しないことが明らかとなりました。 この結果はエネルギーギャップのないスピン液体状態が、絶対零度でフラストレーションという制御パラメータに対して安定に「相」として存在することを示唆しており、モット絶縁体の新しい量子相の理解へつながる重要な成果であると考えられます。

"Novel Pauli-paramagnetic quantum phase in a Mott insulator"
D. Watanabe, M. Yamashita, S. Tonegawa, Y. Oshima, H. M. Yamamoto, R. Kato, I. Sheikin, K. Behnia, T. Terashima, S. Uji, T. Shibauchi, and Y. Matsuda
Nature Commun. 3, 1090 (2012); arXiv:1210.0407.

[2012年7月]
重い電子系化合物URu2Si2の「隠れた秩序」相における電子構造を解明 Topへ

重い電子系化合物URu2Si2では17.5 Kで2次相転移を示すことが27年前から知られていますが、これより低温でどのような秩序が形成されているかが大きな謎となっており、「隠れた秩序」相とよばれています。 この長年の謎を解く鍵となる電子構造、特にフェルミ面の構造の全貌については、様々な測定手段を用いた多数の実験をもってしても明らかになっていない部分が多く、その解明が急務となっていました。 今回我々は、重い電子系物質では初めてとなるサイクロトロン共鳴を観測し、その角度依存性の詳細を調べた結果、主なフェルミ面に対応する有効質量の構造をほぼ完全に明らかにすることに初めて成功しました。 その結果、今まで等方的と思われていたホール面に対応する共鳴線が、[110]方向の近くで2つに分裂しており、結晶構造から期待される4回対称性を破った2回対称性を示す電子構造であることを明らかにしました。 この結果は、隠れた秩序の対称性を強く制限するため、この秩序を最終決定する上で非常に重要な結果だと考えられます。

"Cyclotron Resonance in the Hidden-Order Phase of URu2Si2"
S. Tonegawa, K. Hashimoto, K. Ikada, Y.-H. Lin, H. Shishido, Y. Haga, T. D. Matsuda, E. Yamamoto, Y. Onuki, H. Ikeda, Y. Matsuda, and T. Shibauchi
Phys. Rev. Lett. 109, 036401 (2012); arXiv:1207.3905.

[2012年6月]
超伝導体が絶対零度で示す新しい臨界現象を発見 Topへ

状態の変化を表す相転移の理解は物理学の中心課題の一つです。相転移の近傍では、均一な状態からのずれ(ゆらぎ)が大きくなりますが、通常これは熱によってゆらぎが引き起こされていると考えることができます。 しかしながら、この相転移は熱ゆらぎの存在しない絶対零度でも、圧力、化学組成などの温度ではないパラメーターを変化させることによっても起こすことが出来ます。 このような相転移は量子相転移と呼ばれ、不確定性原理に由来する量子ゆらぎによって起こるものであり、このような相転移を起こす点は量子臨界点と呼ばれます。 今回、鉄系超伝導体が絶対零度で示す新しい臨界現象を発見しました。鉄イオンを含む高温超伝導物質の元素組成比を化学的に変化させたところ、超伝導電子の重さが、ある組成比に近づくにつれて著しく増強されることを実験的に明らかにしました。 この結果は超伝導状態の中に、量子臨界点が存在することを直接的に示すもので、これまでの長年の未解決の問題に答えを与えるものです。 さらに、この臨界点直上で超伝導転移温度が最も高く、量子効果によるゆらぎの増大と超伝導転移温度を高める要因が強く関連していることが示唆されます。

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"A sharp peak of the zero-temperature penetration depth at optimal composition in the iron-based superconductor BaFe2(As1-xPx)2"
K. Hashimoto, K. Cho, T. Shibauchi, S. Kasahara, Y. Mizukami, R. Katsumata, Y. Tsuruhara, T. Terashima, H. Ikeda, M. A. Tanatar, H. Kitano, P. Walmsley, A. Carrington, R. Prozorov, and Y. Matsuda
Science 336, 1554-1557 (2012).
* Perspective article: S. Sachdev, Science 336, 1510-1511 (2012).

[2012年06月]
鉄系高温超伝導体において「電子のネマティック液晶状態」を発見 Topへ

電子間の相互作用が強い強相関電子系物質では、様々な自明でない複雑な電子相が現れることが近年明らかとなってきており、その最も驚くべき相の一つが回転対称性を破って1次元的な方向性を示す「ネマティック」電子相と呼ばれるものです。 鉄系高温超伝導体では4回回転対称性を持つ正方晶から2回対称性を持つ斜方晶への構造相転移と、それより少し低い温度で反強磁性秩序が起きることが知られており、これらの転移温度が消失する近傍で超伝導が起こることが知られていました。 今回、下図に示すように、通常の実験で正方晶と思われていた超伝導相を覆うような広い範囲で、電子状態が2回対称性を示すことを発見しました。 これは電子の軌道が1方向に整列したことによるものであると考えられ、このような状態が高温超伝導の引き金となっている可能性を示すものです。

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"Electronic nematicity above the structural and superconducting transition in BaFe2(As1-xPx)2"
S. Kasahara, H. J. Shi, K. Hashimoto, S. Tonegawa, Y. Mizukami, T. Shibauchi, K. Sugimoto, T. Fukuda, T. Terashima, A. H. Nevidomskyy, and Y. Matsuda
Nature 486, 382-385 (2012); arXiv:1207.1045.

[2012年1月]
同形超伝導体LiFeAsとLiFePの対照的な超伝導状態を明らかに Topへ

鉄系高温超伝導体では、マルチバンドの電子構造と非従来型の超伝導機構があいまって、その超伝導状態が物質群によって多様性を示すことが明らかになってきています。 この異常な振る舞いを理解するには、物質のどのパラメータが鍵となって超伝導状態が異なっているのかを明らかにする必要があります。 我々は同形の超伝導体LiFeAsとLiFePの純良単結晶試料の磁場侵入長測定から、AsとPの違いによりエネルギーギャップ構造が異なることを明らかにしました。 量子振動の実験からLiFePではホールバンドの一部で電子相関が弱くなっていることを見出しました。さらに、様々な物質群の比較から、鉄系超伝導体では、結晶構造における鉄平面とニクトゲン原子(AsやP)との距離が短くなるとギャップにゼロ点が生まれることを実験的に明らかにしました。 これらの情報は、鉄系超伝導発現機構解明に向け非常に重要な結果だと考えられます。

"Nodal versus Nodeless Behaviors of the Order Parameters of LiFeP and LiFeAs Superconductors from Magnetic Penetration-Depth Measurements"
K. Hashimoto, S. Kasahara, R. Katsumata, Y. Mizukami, M. Yamashita, H. Ikeda, T. Terashima, A. Carrington, Y. Matsuda, and T. Shibauchi
Phys. Rev. Lett. 108, 047003 (2012); arXiv:1107.4505.

"de Haas–van Alphen Study of the Fermi Surfaces of Superconducting LiFeP and LiFeAs"
C. Putzke, A. I. Coldea, I. Guillamón, D. Vignolles, A. McCollam, D. LeBoeuf, M. D. Watson, I. I. Mazin, S. Kasahara, T. Terashima, T. Shibauchi, Y. Matsuda, and A. Carrington
Phys. Rev. Lett. 108, 047002 (2012); arXiv:1107.4375.

[2011年10月]
重い電子の人工超格子で「超強結合」超伝導を実現 Topへ

電子同士の相互作用が強い「強相関電子系」を低次元化すると、さらに電子相関の効果が顕著になり、様々な興味深い現象が発現します。高温超伝導はその代表例だと考えられます。 電子相関が最も強い金属状態はレアアース化合物などf軌道の電子を持つ系で実現され、相互作用により電子の有効質量が増大するため、「重い電子系」物質とよばれています。 このような重い電子系の超伝導は知られていましたが、いずれも電子構造が3次元性を持つものでした。今回、下図に示すように、セリウム化合物の今回人工超格子構造を作製することで、2次元性を持つ超伝導状態を世界ではじめて実現しました。 この超伝導は、これまで前例のないほど強結合状態にあることが明らかとなり、強相関2次元超伝導の理解に役立つことが期待されます。

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"Extremely strong-coupling superconductivity in artificial two-dimensional Kondo lattices"
Y. Mizukami, H. Shishido, T. Shibauchi, M. Shimozawa, S. Yasumoto, D. Watanabe, M. Yamashita, H. Ikeda, T. Terashima, H. Kontani, and Y. Matsuda
Nature Physics 7, 849-853 (2011); arXiv:1109.2382.
* News & Views article: J. D. Thompson Nature Physics 7, 838-839 (2011).

[2011年8月]
鉄系超伝導体BaFe2(As,P)2のギャップ構造を決定 Topへ

鉄系高温超伝導体の大きな特徴はマルチバンドの電子構造を持ち、左下図のようにホールバンドと電子バンドが離れた筒状のフェルミ面を形成している点です。 鉄系高温超伝導発現機構を解明する上で、超伝導秩序パラメータ(超伝導ギャップ)の対称性を決定することは最重要課題と考えられていますが、このようなマルチバンドの電子構造を考慮した、詳細な議論が必要となります。 我々は、低エネルギー励起に敏感な熱伝導率の磁場角度依存性の実験結果から、比較的高い30 Kの転移温度を持つBaFe2(As,P)2では、電子バンドのフェルミ面にのみ右下図のようなループ状のゼロ点(ノード)を持つ超伝導ギャップ構造を持っていることを初めて明らかにしました。 この構造は拡張s波という対称性を持つ非従来型超伝導であることを決定づけるものです。

"Nodal Gap Structure of Superconducting BaFe2(As1-xPx)2 from Angle-Resolved Thermal Conductivity in a Magnetic Field"
M. Yamashita, Y. Senshu, T. Shibauchi, S. Kasaharsa, K. Hashimoto, D. Watanabe, H. Ikeda, T. Terashima, I. Vekhter, A. B. Vorontsov, and Y. Matsuda
Phys. Rev. B 84, 060507(R) (2011); arXiv:1103.0885.

[2011年1月]
ウラン化合物における四半世紀の謎を解明 Topへ

ウラン化合物URu2Si2は、電子間の相互作用が強く、強相関電子系物質として知られています。 特に、17.5 Kで二次相転移を示すことが1985年に発見されましたが、その後の膨大な研究にもかかわらず、どのような状態になっているかが未解明の状態が続いており、「隠れた秩序」状態とよばれて大きな注目を浴びています。 相転移による状態の変化は一般に対称性の破れを伴いますが、「どの対称性が破れた状態であるか」という最も根本的な問題が未解決のまま、物性物理学における四半世紀にわたる大きな謎でした。 今回、原子力開発機構の芳賀グループにより育成された純良微小単結晶の磁気トルク精密測定から、結晶構造の4回回転対称性を破った「ネマティック」電子状態とよべる状態であることを初めてつきとめました。 これは今まで数多く提唱されている理論の前提を覆すもので、物質の新しい状態の理解へつながると期待されます。

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URu2Si2の結晶構造の概略図に重ねた、ウラン原子面での電子状態のイメージ図。相転移温度以下で方向性を持った状態となる。

"Rotational Symmetry Breaking in the Hidden-Order Phase of URu2Si2"
R. Okazaki, T. Shibauchi, H. J. Shi, Y. Haga, T. D. Matsuda, E. Yamamoto, Y. Onuki, H. Ikeda, and Y. Matsuda
Science 331, 439-442 (2011).

[20年月]
量子スピン液体におけるギャップレス励起の発見 Topへ

通常の物質は絶対零度においては固体となって結晶を組みますが、量子揺らぎの効果が強いと結晶化できずに「量子液体」と呼ばれる状態にとどまることが液体ヘリウムなどの研究で知られていました。 電子の持つスピンも二次元三角格子などの幾何学的フラストレーションのある環境に置かれると絶対零度まで凍結しない「量子スピン液体」になる可能性があり、実際最近になってそうした量子スピン液体の候補物質が見つかってきましたが、その詳しい性質は謎でした。 今回我々は量子スピン液体状態をもつ有機物EtMe3Sb[Pd(dmit)2]2の熱伝導率を極低温まで測ったところ、この物質は絶縁体であるにもかかわらず、金属中の電子のような熱伝導性を示すことが分かりました。 これは量子スピン液体におけるスピンがギャップレスの励起をもっていることを示しています。この結果は量子スピン液体が、ただスピンがバラバラなだけの常磁性体とは異なり、非常に長い相関をもつ量子状態にあることを世界で初めて実験的に示したものです。

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(左図:三角格子におけるスピンのフラストレーション。右図:量子スピン液体の想像図。)

"Highly Mobile Gapless Excitations in a Two-Dimensional Candidate Quantum Spin Liquid"
Minoru Yamashita, Norihito Nakata, Yoshinori Senshu, Masaki Nagata, Hiroshi M. Yamamoto, Reizo Kato, Takasada Shibauchi, Yuji Matsuda
Science 328, 1246-1248 (2010).

[2010年6月]
鉄系高温超伝導体のギャップ構造の多様性を明らかに Topへ

超伝導体のエネルギーギャップ構造は、その超伝導の発現機構と密接な関わりがあり、今までの超伝導体では同じ系の超伝導体は同様なギャップ構造を持っていました。 たとえば銅酸化物高温超伝導体では、様々な転移温度を持つ異なった物質群で、同じようなゼロ点を持つギャップ構造を共通に持つことがわかっています。 しかしながら、最近発見されたBaFe2As2を元にした鉄系高温超伝導体では、FeをKに置換した物質とAsをPで置換した物質で、似通った転移温度を示すにもかかわらず、そのギャップ構造に大きな違いがあることが明らかとなりました。 我々はP置換の純良単結晶育成に成功し、その低温精密物性測定からこの違いを高い確度で示しました。これはこの系の特殊な電子構造と、非従来型の超伝導機構があいまって現れた前例のない性質であると考えられます。

"Line Nodes in the Energy Gap of Superconducting BaFe2(As1-xPx)2 Single Crystals as Seen via Penetration Depth and Thermal Conductivity"
K. Hashimoto, M. Yamashita, S. Kasahara, Y. Senshu, N. Nakata, S. Tonegawa, K. Ikada, A. Serafin, A. Carrington, T. Terashima, H. Ikeda, T. Shibauchi, and Y. Matsuda
* Editors' suggestion Phys. Rev. B 81, 220501(R) (2010); arXiv:0907.4399.

"Evolution from Non-Fermi- to Fermi-Liquid Transport via Isovalent Doping in BaFe2(As1-xPx)2 Superconductors"
S. Kasahara, T. Shibauchi, K. Hashimoto, K. Ikada, S. Tonegawa, H. Ikeda, H. Takeya, K. Hirata, T. Terashima, and Y. Matsuda
Phys. Rev. B 81, 184519 (2010); arXiv:0905.4427.

[2010年2月]
重い電子系の人工的な2次元化に成功 Topへ

現代の固体物理学において、高温超伝導や量子ホール効果など興味深い性質を示す「2次元電子系」と、電子同士の相互作用が強い「強相関電子系」という2つの重要な分野があります。 現在までに最も強い電子相関を示す「重い電子系」化合物の電子構造は全て3次元的でした。 2次元の重い電子系を作り出すことができれば、これらの2つの分野を融合した未知領域を開拓でき、さらなる相互作用の増大やゆらぎの発達により新奇な電子状態が実現できることが期待できます。 我々は低温物質科学研究センター寺嶋研と共同で分子線エピタキシーという方法を用いて、重い電子系として知られているCe化合物の人工超格子構造を世界で初めて作ることに成功しました。 この技術により重い電子状態を人工的にデザインすることが可能になり、今後新奇超伝導状態の創出や強相関エレクトロニクスへの応用が期待されます。

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"Tuning the Dimensionality of the Heavy Fermion Compound CeIn3"
H. Shishido, T. Shibauchi, K. Yasu, T. Kato, H. Kontani, T. Terashima, and Y. Matsuda
Science 327, 980-983 (2010). See also Perspective article by P. Coleman Science 327, 969-970 (2010).

[2010年2月]
鉄系高温超伝導体のフェルミ面に多体効果が明らかに Topへ

鉄系高温超伝導体では、反強磁性秩序の近傍で超伝導が出現することから、反強磁性揺らぎなどの電子の多体相関が重要であるのではないかと考えられてきました。 その超伝導発現機構の理解を巡って重要となるのが、フェルミ面の決定です。我々は高温超伝導を示す領域としては初めてとなる高磁場量子振動の観測に成功し、フェルミ面の大きさや有効質量を決定しました。 その結果、反強磁性相に近づくにつれて超伝導転移温度が増大するにつれ、バンド計算の結果から外れていき、有効質量が増大していくことが明らかとなりました。これは、超伝導の起源に多体効果が重要であることを直接的に示した重要な結果であると考えられます。

"Evolution of the Fermi surface of BaFe2(As1-xPx)2 on entering the superconducting dome"
H. Shishido, A. F. Bangura, A. I. Coldea, S. Tonegawa, K. Hashimoto, S. Kasahara, P. M. C. Rourke, H. Ikeda, T. Terashima, R. Settai, Y. Onuki, D. Vignolles, C. Proust, B. Vignolle, A. McCollam, Y. Matsuda, T. Shibauchi, and A. Carrington
Phys. Rev. Lett. 104, 057008 (2010); arXiv:0910.3634.

[2009年5月]
新鉄系高温超伝導体の超伝導電子密度の異常な不純物効果 Topへ

従来のBCS超伝導体では非磁性不純物を導入しても超伝導への影響は少なく、転移温度やエネルギーギャップ、また超伝導電子密度の温度依存性はほとんど変化しないことが「Andersonの定理」として知られています。 これに対し、秩序変数の符号反転を伴う非従来型の異方的超伝導では不純物導入により低エネルギー励起が大きく変化し、超伝導電子密度に大きく影響することが期待されます。 今回、新型の鉄系高温超伝導体において、様々な不純物散乱を持つ単結晶の超伝導電子密度の温度依存性を調べたところ、散乱率の大きさに大きく依存することが明らかとなりました。 この結果はこの超伝導体が新しいタイプの非従来型超伝導体であることを示唆しています。

"Microwave Surface-Impedance Measurements of the Magnetic Penetration Depth in Single Crystal Ba1-xKxFe2As2 Superconductors: Evidence for a Disorder-Dependent Superfluid Density"
K. Hashimoto, T. Shibauchi, S. Kasahara, K. Ikada, S. Tonegawa, T. Kato, R. Okazaki, C. J. van der Beek, M. Konczykowski, H. Takeya, K. Hirata, T. Terashima, and Y. Matsuda
Phys. Rev. Lett. 102, 207001 (2009); arXiv:0810.3506.

[2009年4月]
重い電子系URu2Si2の「隠れた秩序」相内に新たな相転移を発見 Topへ

重い電子系化合物URu2Si2では17.5 Kで比熱が大きな跳びを示し、その相転移の起源をめぐって様々な研究が行なわれています。 特に、他の重い電子系で観測されているような反強磁性や強磁性など磁性は観測されておらず、その秩序変数の実体は20年以上も未知となっています。 最近育成された純良単結晶を用いてこの「隠れた秩序」相内で高磁場輸送特性を調べたところ、新しい相転移を示唆する22テスラ近辺でホール抵抗の明瞭な跳びと、より高磁場で新しいフェルミ面の出現に起因した量子振動現象が観測されました。 これは、「隠れた秩序」がバンドごとに大きさの異なる秩序変数を持ち、磁場により秩序が多段階で壊れることを示唆しており、隠れた秩序の解明に大きなヒントを与える結果であると考えられます。

"Possible Phase Transition Deep Inside the Hidden Order Phase of Ultraclean URu2Si2"
H. Shishido, K. Hashimoto, T. Shibauchi, T. Sasaki, H. Oizumi, N. Kobayashi, T. Takamasu, K. Takehana, Y. Imanaka, T. D. Matsuda, Y. Haga, Y. Onuki, and Y. Matsuda
Phys. Rev. Lett. 102, 156403 (2009); arXiv:0903.3821.

[2009年3月]
鉄砒素系超伝導体の下部臨界磁場を新しい手法で評価 Topへ

第2種超伝導体に磁場をかけていくとマイスナー状態では磁場は排除され、下部臨界磁場に達したとき渦糸の侵入が始まります。 これまでこの下部臨界磁場の評価には主にバルク磁化測定が用いられてきましたが、そのような手法では渦糸のピン止めに起因する試料全体の不均一な磁化を平均して測定してしまうという問題点があり、下部臨界磁場の決定は非常に困難でした。 そこで今回、微小なホール素子をアレイ状に並べた素子を使用し、試料端からの磁束の侵入を精密に測定することによって鉄砒素系超伝導体PrFeAsO1-yの下部臨界磁場の決定に成功しました。 またさらにその異方性を測定したところ、この系では2次元的なフェルミ面が超伝導発現により関わっていることを示唆する結果が得られました。

"Lower critical fields of superconducting PrFeAsO1-y single crystals"
R. Okazaki, M. Konczykowski, C. J. van der Beek, T. Kato, K. Hashimoto, M. Shimozawa, H. Shishido, M. Yamashita, M. Ishikado, H. Kito, A. Iyo, H. Eisaki, S. Shamoto, T. Shibauchi, and Y. Matsuda
Phys. Rev. B 79, 064520 (2009); arXiv:0811.3669.

[2009年1月]
新鉄系高温超伝導体のギャップにゼロ点がないことを解明 Topへ

2008年に東工大グループにより鉄を含む新高温超伝導体が発見されました。これは、サイエンス誌の2008年10大ニュースの一つにも選ばれ、現在の物理学の大きなトピックスとなっています。 基礎物理学としての最重要課題は、その超伝導機構を明らかにすることですが、その上で、欠かせないのが超伝導ギャップ構造の同定です。 現在までに、多結晶試料を用いた研究では銅酸化物高温超伝導体同様のゼロ点を持つ構造ではないかと示唆されてきました。 これに対し、我々は世界で初めて単結晶試料を用いてこの問題を調べ、磁場侵入長の温度依存性が低温で一定値に近づく振る舞いを示すことから、ゼロ点がないギャップ構造であることを突き止めました。 これは新しい鉄系超伝導体が銅酸化物とは異なる性質を示すことを意味する重要な結果です。

"Microwave Penetration Depth and Quasiparticle Conductivity of PrFeAsO1-y Single Crystals: Evidence for a Full-Gap Superconductor"
K. Hashimoto, T. Shibauchi, T. Kato, K. Ikada, R. Okazaki, H. Shishido, M. Ishikado, H. Kito, A. Iyo, H. Eisaki, S. Shamoto, and Y. Matsuda
Phys. Rev. Lett. 102, 017002 (2009); arXiv:0806.3149.

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