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電子ネマティック状態

 電子間の相互作用が強い強相関電子系物質では、様々な自明でない複雑な電子相が現れることが近年明らかとなってきており、 その最も驚くべき相の一つが回転対称性を破って1次元的な方向性を示す「電子ネマティック」相と呼ばれるものです。
 ネマティックという言葉は、もともと液晶の分野で使われてきたもので、棒状の液晶分子が高温でバラバラの方向を向いていたものが低温である方向に棒状分子の向きが揃った状態になることをネマティック転移とよんでいます。 電子系では、電子自体は液晶のような方向性は持たないですが、電子液体の集団的な応答がなぜか方向性を示し、ある方向と別の方向で異なる性質を示すようになる状態を液晶の類推から「電子ネマティック」状態とよんでいます。
 例えば正方晶の結晶構造を持つ物質のa方向とb方向は対称性から等価な応答が期待されますが、電子ネマティック相では、これらの方向で異なる振る舞いが見られるという、一見あり得ないようなことが実際に起きています。 最近では、鉄系超伝導体の超伝導転移温度以上の温度領域でこのような電子ネマティック秩序を示している可能性が指摘されており、超伝導との関連性を明らかにすることが重要と考えられています。
 さらに、重い電子系化合物であるURu2Si2における古くからの謎であった「隠れた秩序」相が、実は一種の電子ネマティック秩序である可能性が我々の実験結果から明らかになっており、長年の謎が解けた可能性があります。 このように、電子ネマティック秩序は、強相関電子系に広く見られるものである可能性も浮上してきており、今後研究が進むことにより物質中の電子が示す新しい状態の理解へつながることが期待されます。

電子ネマティック状態のイメージ図。
正方晶の結晶構造において、相転移温度以下で方向性を持った(楕円状で示した)電子状態となる。

解説論文

芝内孝禎, 松田祐司, 「鉄系高温超伝導体の超伝導対称性と電子状態相図(解説)」
日本物理学会誌 68(9), 592-601 (2013).

T. Shibauchi, A. Carrington, and Y. Matsuda, ``A Quantum Critical Point Lying beneath the Superconducting Dome in Iron-Pnictides''
Annu. Rev. Condens. Matter Phys. 5, 113-135 (2014) ; arXiv:1304.6387

芝内孝禎, 松田祐司, 「URu2Si2の隠れた秩序相における対称性の破れ」
固体物理 47(11), 663-672 (2012).

T. Shibauchi, H. Ikeda, and Y. Matsuda, ``Broken Symmetries in URu2Si2''
Philos. Mag. DOI: 10.1080/14786435.2014.887861 (2014).

T. Shibauchi, and Y. Matsuda, ``Thermodynamic Evidence for Broken Four-fold Rotational Symmetry in the Hidden-Order Phase of URu2Si2''
Physica C 481, 229-234 [Special Issue on Stripes and Electronic Liquid Crystals in Strongly Correlated Systems] (2012); arXiv:1207.3903

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