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量子臨界現象

 例えば水の温度を下げると氷になる様に、状態が変化することを相転移といいます。超伝導転移のような2次の相転移とよばれる種類の相転移点の近傍では、 均一な状態からのずれである「ゆらぎ」が大きくなることが知られており、温度を変化させることによって起こる通常の相転移では、 このようなゆらぎの起源は熱によるものと考えられます。では、このような2次相転移を絶対零度で起こすことは可能でしょうか?

 絶対零度では熱によるゆらぎは抑制されており、またエントロピーの変化も期待できないため、不確定性原理による「量子ゆらぎ」により、 量子相転移が起こりえると考えられる様になってきました。例えばある温度で反強磁性などの秩序を持つ相への相転移が起こる物質があるとします。 その物質に圧力や磁場をかけたり、化学組成を少し変えたりする(制御パラメータとよばれます)ことで、相転移温度を減少させることが可能です。 その結果、下図のように転移温度を絶対零度までに持ってくることができれば、量子相転移が起こると考えられ、 ちょうどその境界にあたる点が「量子臨界点、Quantum Critical Point (QCP)」とよばれます。
 このQCP近傍では量子ゆらぎが増大し、秩序を持つ状態と秩序を持たない状態の重ね合わせ方は自明ではありません。 また、しばしばこのようなQCP近傍で非従来型超伝導(下図でSCで示すドーム状の部分)が発現することから、QCP近傍の物理学の重要性は近年非常に高まってきています。 また、QCP近傍での量子ゆらぎの増大により、V字型の(下図の青で示した)量子臨界領域とよばれる領域では、 標準金属理論であるフェルミ液体論から逸脱した振る舞いなどの異常現象が観測されています。このような量子臨界点まわりの異常物性や、 超伝導発現との関連を理解することが現代の固体物理学の重要な課題となっています。


解説論文

芝内孝禎, 松田祐司, 「鉄系高温超伝導体の超伝導対称性と電子状態相図(解説)」
日本物理学会誌 68(9), 592-601 (2013).

T. Shibauchi, A. Carrington, and Y. Matsuda, ``A Quantum Critical Point Lying beneath the Superconducting Dome in Iron-Pnictides''
Annu. Rev. Condens. Matter Phys. 5, 113-135 (2014) ; arXiv:1304.6387

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