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超伝導

 「超伝導」(Superconductivity)は物理学の中でも最も劇的な現象の一つであり、その物理学的な理解は近代物性物理学の中心的な課題です。 超伝導状態では、電気抵抗が消失するなどの非常に特長的な物性を示すため、応用面でも非常に重要な現象であり、 例えばMRIやリニアモーターカーなどに超伝導を用いた強磁場磁石が使われています。超伝導は、電子が対(クーパーペア)を組むことによりできた新しい凝縮状態であり、 固体電子が持つ量子性が磁束の量子化やジョセフソン効果といった様々な形で顔を出すため、「巨視的量子現象」としても知られています。
 従来の金属における超伝導はBCS理論によりほぼ理解されています。このBCS理論は非常に美しい理論であり、物理学の他の分野に対しても大きな影響を与えているものであるため、 しっかりと理解しておきたいものです。この理論では、電子が対を組む機構として、格子振動を媒介とする電子-電子相互作用を仮定しており、 電子対の対称性は等方的なs波であることが確立しており、多くの単純金属でこの正しさが証明されています。 このBCS理論での超伝導転移温度の限界値はおよそ40ケルビン程度と見積もられていて、この機構による室温超伝導は得られないであろうと考えられています。
 最近では、電子対形成機構として他の可能性が考えられていて、実際に「BCS理論の壁」を超えた高い転移温度を持つ高温超伝導体が見つかっており、 このような非従来型超伝導の理解が固体物理学の大きな課題となっています。我々の研究室では以下のような様々な新しい超伝導状態を研究しています。

異方的超伝導

 強相関電子系物質における超伝導では、電子間の強い反発力のため、同じ位置(on-site)に電子が来にくいことを反映し、 例えば隣り合ったサイトでの引力を感じやすくなります(下図右)。このような電子間相互作用の特殊性はフーリエ変換した波数空間で見てみると、 波数に依存した正の相互作用、つまり斥力となります(下図左)。このような場合、強く波数依存する電子対の対称性が期待され、角運動量を持ったp波、 d波などの等方的でない(s波でない)異方的超伝導が現れます。実際、銅酸化物高温超伝導体や重い電子系超伝導体ではd波対称性が実現していることが知られています。 このように、超伝導対称性を決定することは電子間相互作用の詳細を探るのに最も本質的であると考えられています。


解説論文
芝内孝禎, 「バルク測定で見る強相関電子系における対称性の破れ~異方的超伝導から電子ネマティック状態まで(第2回重い電子系若手秋の学校テキスト)」
物性研究 97, 875-897 (2012).

芝内孝禎, 松田祐司, 「ディラック超伝導体準粒子-熱輸送特性」
固体物理 45(11), 691-699 (2010).

拡張型s波超伝導

 2008年以降非常に研究が盛んになっているのが、鉄系高温超伝導体です。 この物質群は、銅酸化物高温超伝導体に次ぐ高い転移温度を持ち、従来型ではない電子対形成機構を持っていることは確実ですが、電子対の対称性はs波に分類されることがわかってきました。 特に非常に似通った物質群のうち、少し化学組成などを変化することで、波数空間における異方性が変化するというということがわかってきています。
 このような新しいタイプの「拡張型s波」超伝導の起源を明らかにすることが重要な問題となっており、特に、以前から知られている「スピン揺らぎ」による超伝導と新しく提案された「軌道揺らぎ」による 超伝導の協奏により様々な新しい物理が生まれつつあります。

解説論文
水上雄太,芝内孝禎,「鉄系超伝導体における超伝導対称性の決定 ーギャップ構造の特異な不純物効果ー」
固体物理 50(8), 447-455 (2015).

芝内孝禎, 松田祐司, 「鉄系高温超伝導体の超伝導対称性と電子状態相図(解説)」
日本物理学会誌 68(9), 592-601 (2013).

石田憲二, 佐藤卓, 芝内孝禎, 藤森淳, 「鉄系超伝導体研究の現状と課題-物性(解説)」
日本物理学会誌 64(11), 817-815 (2009).

磁場中における新奇な超伝導相

 通常の超伝導では、クーパーペアを組む電子の波数ベクトルは符号が反対で絶対値が等しい(k↑,-k↓)の組みで、重心の運動量はゼロとなっています。 これに対し、強い磁場をかけた状態では、ゼーマン分裂により↑スピンと↓スピンのバンドが分裂し、(k+q↑,-k↓)というような重心運動量を保存しない新しい超伝導状態が出現する可能性があります。 このような状態を Fulde-Ferrell-Larkin-Ovchinnikov (FFLO) 相と呼びますが、最近、重い電子系超伝導体や有機超伝導体でこのような相と考えられる状態が発見されています。 このような高磁場相で実際どのような超伝導が実現しているかを明らかにする必要があります。

時間反転対称性を破る超伝導状態

 量子力学で時間反転対称操作は、波動関数の軌道成分については複素共役をとる(iを-iに変える)ことに対応するので、 超伝導対称性の形が複素数となる場合には、時間反転対称操作をしても元に戻らない、つまり時間反転対称性を破る状態といえます。 このような新しい超伝導状態では、a±ibという2つの状態が許される「カイラル超伝導」ともよべる状態となり、ドメイン構造を示したり、不純物や境界などで自発的な磁場を発生することが期待されています。 このようなカイラル超伝導の実験的な検証は重要な課題であり、それに伴う新しい物理の発展も期待されています。

解説論文
笠原裕一, 宍戸寛明, 芝内孝禎, 松田祐司, 「隠れた秩序下で起こる重い電子の奇妙な超伝導(最近の研究から)」
日本物理学会誌 63(6), 446-450 (2008).

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